ワクワク☆吉利『もっとはやく人間になりたい』

日記。絵日記。エッセイ。漫画。小説。つぶやき。おやらかし珍道中。旅日記。ゲーム。突撃潜入。実験。その他もろもろ。よろずな内容でお送りする馬鹿ブログ、馬鹿日記です。

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 夜の闇に紛れてしまうことなくぼんやりと浮かび上がる雪の白は、勝手知ったるはずの町を昼とは全く別のものにしていて、私は寒さで痛む鼻を擦りながら右往左往した。



 もう家の前に辿り着いてもいいのに……ここは一体どこら辺だろう?



 どかどか降って来る雪に覆われ、丸みを帯びた家々のシルエットはどれも同じに見え、私は困惑した。

 手足の先があまりの寒さに感覚を無くし始め、こんなことなら家で大人しく寝ていれば良かったとしくしく泣き出した私の肩を誰かが叩いた。







「こんな時間に、こんな所で何をしているんだい?」






 振り返ると、怪訝そうに首を傾げてこっちを見ている少年がいた。

 心細さにどうにかなりそうだった私は、小躍りしたい気分で少年に事情を話した。彼はしゃっくりで頻繁に途切れる私の話を根気よく聞いてくれ、そして家まで送ってくれると申し出てくれたのだった。




 安堵し、ようやく冷静になった時、私は彼がずいぶんと不思議な格好をしていることに気が付いた。


 この寒い雪の日に、何故か薄い白のワイシャツ一枚で、白いズボンから突き出た足は何も履いておらず、裸足だったのだ。




 寒くないの? と訊ねた私に、彼は平気と微笑んで答えた。



 幼かった私は本人がそう言うのならそうなのだろうと納得したが、それでも隣に立って歩く人が薄着なのを見ていると自分が寒いような気がしてきて、私は半ば強引に自分の赤い手袋を彼に貸してあげた。
 彼は一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべたものの、すぐに受け取って嵌めて見せてくれた。



 暖かいね、とにこにこしながら。








 この坂を降り切った所が君の家だよ、と言って真っ白な前方を指差し立ち止まった彼の髪に纏わりついている、綿毛のような雪に目を奪われていた私は、このまま彼と別れるのが惜しくなった。
 何しろ十年も同じ町に住んでいながら、彼の顔を私は初めて見たのだ。名前も知らない上に家がどこにあるのかも分からない。
 
 これは由々しき状態であるように当時の私には思えた。だから私は訊ねたのだ。





 あなたの名前は?

 また会える?




 と。




 
 彼は見知らぬ女の子にそんなことを訊かれて酷く驚いたのだろう。開いた目に雪が入ってしまうのではないか、思わず心配になってしまうほど目を丸くして私を振り返った。


「……僕の名前は冬輝。ふゆきだよ。家はこの町じゃないんだ。だから……また君と会えるかどうかは分からないや」


 それを聞いて私はがっかりした。
 いや、それどころではない。それまで生きてきた中で一番と言っていいほど、悲しくて堪らなかった。




 ついさっきまでは、慣れ親しんだこの町を離れなければならない自分は世界一不幸で可哀想な人間だと思っていたのだが、冬輝に二度と会えない自分のほうが宇宙で一番哀れなように思えた。
 再びしくしく始めた私に同情したのか、単に泣き止んでもらいたかっただけか、冬輝はじゃあ、と口を開いた。



「次に雪が降った時に、また会おう」



 嬉しくなって顔を上げると、私の吐いた真っ白な吐息の向こうで冬輝は微笑んでいた。





 次に雪が降った時、また会おうね! 絶対よ! 絶対の絶対よ!





 私はしつこく念を押して約束を取り付け、彼が指差した方へと走り出した。

 急かされた訳ではなかったのだが、そうせずにはいられないほど私は何だか浮かれていたのだ。当然、踊るような足つきで駆けていた私は柔らかい雪に足を取られて転んだ。

 走っていたことと下り坂だったことで、みっともなくも私はそのままごろごろと坂の下まで転がり落ちた。




 冬輝は見ていたかな? 見られていたら死ぬほど恥ずかしいな。きっと見ていただろうな。



 そう思いながら恐る恐る転がってきた方を見上げると、そこには坂はおろか道すら無かった。私の家の物置があるだけだった。



 おかしいな? 坂が見えなくなるほど長い間転がっていたのかしら? と首を捻りながらも、私は家のドアを開けたのだった。
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まとめtyaiました【薄紅粉雪2】
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2012/05/02(水) 17:28:20 | まとめwoネタ速neo
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